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ニュータイプの自転車メーカー「バンムーフ」に、令和という新しい時代のセンスを垣間見る

2017年5月に東京でデビューを果たした、初代Electrified X。
参照:GQ JAPAN

電動アシスト自転車というと、日本では子供のいる母親の乗り物というイメージが強い。一方で男の自転車といえば、フクラハギの太さを自慢し合う人たちが中心の世界なので、ともすれば「電動」は見下されがちである。けれど、世界の見方はちょっと違う。来日したアムステルダムの自転車メーカーVanMoofのCEO、ティーズ・カーリエ氏に話を訊いた。

eバイク

「たとえばロンドン市は、自転車用のインフラ整備に次の3年間で3億ユーロの予算を組みました。世界中の多くの都市で、車から自転車への転換は始まっています。アマゾンやグーグルといったアメリカのテック企業も、従業員が車からバイクに乗り換えることを奨励しています。世界の自転車産業は、今後5年間で62億ユーロの成長が見込まれていますが、そのうち半分以上がeバイクになるでしょう」

世界の都市開発の趨勢は、中心からできるだけ自動車を排除し、人間中心の空間を取り戻す方向に向かっている。そのとき、都市生活者の移動ツールとして再注目されているのが自転車、とくに「電動アシスト自転車=eバイク」である。日本では、ナショナルやヤマハ、ブリジストンがメジャーだが、欧州ではドイツやオランダのメーカーが中心だ。とくに自転車大国オランダでは、eバイクは持続可能なライフスタイルのシンボル的存在でもある。

VanMoofは、そんなオランダ・アムステルダム発のニュータイプの自転車メーカーで、2009年、インダストリアル・デザイナーの兄とエンジニアの弟の2人の兄弟が設立。従来の自転車業界とは一線を画す出自や、テクノロジー満載でテック好きに刺さりそうなデザインセンスから「自転車界のテスラ」などとも呼ばれ、一部の熱烈なファンに支持されている。これまでの自転車は高級といっても、結局は複数メーカーのパーツの寄せ集めだったりするけれど、VanMoofはタイヤを除くすべてのパーツを、オリジナルでデザイン。そのディテールからは、プロダクトに対する強いこだわりとプライドを感じることができる。

「自転車には、趣味で乗るスポーツバイクと、通勤や通学、日常の足として使うシティバイクがあります。ここ30年間、このシティバイクを良くしようと考えるエンジニアはいませんでした。ひたすら安くすることしか頭になかった。なぜなら、高価なバイクは盗まれるから。そこで、高品質かつ相応の価格のバイクに必要なのは“盗まれない”ことだと考えたのです」

世界の大都市の街角で、チェーンロックで何重にも巻かれた自転車の姿を、見たことはあるだろうか? そんな努力にも関わらず、タイヤやサドルを持ち逃げされた悲しい自転車の写真に、心を痛めたことはないか? VanMoofが広く注目されるきっかけとなったのも、モダンなデザインと同時に、ハイテクな盗難防止システムだった。キーレスロックや盗難アラーム、スマホとの連携、GSM電波による追跡機能など、高級車並みの盗難防止機能を搭載。万が一盗まれたときは、バイクハンターと呼ばれる捜査専門チームが現地に派遣され、2週間以内に取り戻せなければ、同等品と交換するという保証も用意されている。

VanMoofのラインナップには、現在、この盗難防止機能を搭載する「Smartシリーズ」と、盗難防止機能+電動アシスト機能を持つ「Electrifiedシリーズ」があり、それぞれフレームの形状によって「S」と「X」の2タイプがある。「S」はロードタイプの大型で、「X」は一回り小さなクロスバイク風のフォルム。そして今回「Electrifiedシリーズ」のVir2.0として発表されたのが「Electrified S2」と「Electrified X2」。実車完成前の先行予約だけで1万1000台という、業界内では驚異的数字を記録し、eバイク界の注目を集めている。

最初の成功

「2017年に行った最初のクラウドファンディングで、私たちは14日間で250万ユーロ(約3億円)を集めました。それは当時、オランダのクラウドファンディング史上、最速の記録でした。その資金で、 S2とX2の開発が可能になったのですが、それも、初代Electrified Xの成功があったからです」

じつは初代のElectrified Xは、東京に暮らす人たちのためにデザインされ、世界でいちばん最初に東京で発売されたモデルだった。オランダ人は背が高い。都市空間や建築の規格も大きい。ティーズ・カーリエ氏の身長も約2メートル。けれど、そんなカーリエ氏が初めて訪れた東京は、階段もエレベーターも舗道も、都市の規格がすべて小さくて狭い。そして毎朝夕に目にする、通勤地獄に晒される人々の姿。そんな東京の都市生活者を満員電車やすし詰めバスから解放するために、よりコンパクトなボディを持つeバイクとしてデザインされたのが、Electrified Xだった。

普通の自転車通勤者の移動距離は平均3kmほどだが、eバイクならこの数字を20kmまで引きあげることができるという。オランダと違って坂道の多い東京の通勤でも、苦にならず、フクラハギにも優しい。しかも、VanMoofのモダンなデザインなら、ジャケットでも決して違和感はない。日本でも、車やバイクに代わるシティコミューターとして、eバイクにもっと注目が集まってもいいように思う。実際、2017年にElectrified Xが東京でローチンされたとき、注目するメディアは少なくなかった。東京に足りないのはきっと、自転車専用レーンなど自転車のための都市インフラなのだろう。

「日本はいつもインスピレーションを与えてくれます。世界的メーカーの多くが製品の品質テストに日本市場を選ぶとも言われるほど、日本人のプロダクトに対する審美眼は世界一です。すべてがミニマリスティックでハイクオリティ。でも、自転車だけが古臭く、時代遅れに思えたのです」

”初代”デビュー

かくして、東京のためにデザインされた初代Electrified Xは、そのコンパクトなサイズと機能性により、東京よりむしろ世界中の都市生活者の注目を集め、その後のVanMoof躍進の起爆剤ともなった。現在、VanMoofは、アムステルダム、ベルリン、ロンドン、ニューヨーク、パリ、サンフランシスコ、台北、東京にブランドストアを展開し、世界中に約10万人のVanMoofライダーを抱えている。2019年6月には、VanMoofのライダーやファンのみを対象に、2回目のクラウドファンディングを敢行。わずか12時間で目標の250万ユーロを達成し、自らが持つ記録を塗り替えている。しかも、今回は株式取得型のファンディングで、VanMoofには新たに920人を超える株主が誕生しているのだ。

IPOではなくクラウドファンディングによる資金調達という選択や、ユーザーを中心とした小口の個人株主主体のリベラルな組織構成も、まさしくニュータイプの欧州メーカーという感じなのだが、さらにもうひとつ、VanMoofのニュータイプらしさを感じさせるのが、サブスクリプション(定額制)の採用だ。ソフトウェアの世界ではお馴染みのビジネスモデルだが、リアルプロダクトの、しかもメンテナンスが不可欠な自転車のような製造業では珍しい。けれどそこから、所有に対する時代の意識の変化が、垣間見える気がするのだ。

かつて、所有が人々の目標だった時代があった。所有する車や、家や、ブランド品が、アイデンティとなり得た時代だ。けれどもう、皆そろそろ気づき始めている。どんなに高価なモノを沢山所有しても、幸せにはなれない。持てば持ったで、持ち続けるには金と手間がかかる。そしてどの国でも、税金は持っている人から、たっぷりいただくシステムになっている。

「サブスクリプションは、VanMoofだからできるサービスだと自負しています。他のメーカーではまず不可能。まず、圧倒的なクオリティーが必要です。そして絶対に盗まれないバイクであること。壊れたり盗まれたりするリスクを、ユーザーではなく、メーカーが持つ覚悟と自信がなければ、サブスクリプションはできません。また、私たちが販売店を持たず、オンラインの直接通販中心だからこそ可能なことでもあります」

サブスクリプション・サービスが開始間近!

モノを所有した瞬間の喜びや興奮よりも、プロダクトが与えてくれる体験を通し、ブランドが持つイメージやストーリー、ヴィジョンを共有すること。そこから生まれるコミュニティとの一体感、帰属感、つながっている感。たとえば、アップル信者やアイフォン信奉者の間に見られるような。そんなものが求められているのが、今という時代なのだと思う。そしてサブスクリプションというビジネスモデルは、もっと検討されるべきとも思う。

VanMoofではすでに「Smartシリーズ」で1年間の運営実績を積み、7割のユーザーがサブスクリプションを利用中という。「Electrifiedシリーズ」でも、2019年秋頃からサブスクリプションを選べる予定だ。「S2」「X2」の定価が、43万円。平均15万円前後の国産と比べれば安くはないが、サブスクリプションなら月1万円以内に収まりそうな気配だ。

これを機に、VanMoofコミュニティへの参加を検討してみてはどうだろう? これまでのクラウドファンディングは欧州限定だったが、第3回目には日本からも投資を受け入れたいと、CEOが言っている。投資への参加条件は、まずVanMoofライダーとなることである。

バンムーフブランドストア
住: 東京都渋谷区神宮前3-26-3
TEL: 03-6812-9650
営: 12:00~20:00
休: 月曜
https://www.vanmoof.com/news/ja-JP

文・久信田浩之 撮影・鶴岡義大

GQ JAPAN

記事元:Yahoo Japan Corporation

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