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自転車が大挙してロンドンを“封鎖” いったい何が?

Photo: Asuka Kageura
参照:COURRIER

ヌーの群れのように、大勢のサイクリストが大都会の道路を封鎖しながら走り抜けていく──。ロンドンやベルリン、ニューヨークでは、そんな“異様な光景”が月1回繰り広げられる。

通行を妨げられた車のけたたましいクラクション、怒声、大量のサイクリストが鳴らすベル……。名だたる大都市で、いったい何が起きているのか?

毎月最終金曜日の夕方に行われることが多いこの活動は、通称「Critical Mass(クリティカル・マス)」と呼ばれる。1992年にサンフランシスコで始まり、いまや世界各地で行われている。

自動車のドライバーに対して、普段からやや肩身の狭い思いをしているサイクリストたちが道路を独占する行為。ただ、そこには活動を先導するリーダーもいなければ、統一された目的意識もない。活動告知のウェブサイトやツイッターアカウントがあるだけだ。

参加者はそれぞれの理由と自由意志をもって「ゆるく」集まる。ただのお祭り騒ぎとしての一面のほか、車との接触事故で亡くなる人が後を絶たないなかサイクリストが安全に運転できるような配慮を訴えたり、車による大気汚染に異議を唱えてゼロエミッションな自転車をアピールしたりする側面もあるようだ。

──といわれても、いまいちピンとこない。そこで実態を探るため、ロンドンのクリティカル・マスに実際に参加し、ペダルを漕いでみた。

ドライバーが激怒するも…

雨の予報があったものの、当日は数百人が集合。気候変動抗議グループ「Extinction Rebellion」の旗を掲げる人、「クリスチャニアバイク」に欧州旗を持った子供を乗せた人、小型の愛犬を連れた人といった個性派から、レンタルサイクルで気軽に参加してみたという出で立ちの人まで揃っている。

人種も年齢層も豊かで、比較的黒人系が多い。走行中に自慢のBMXを巧みに操作してアクロバットを披露するグループには、自らの存在を見せつけているような印象さえ覚えた。
いずれもほぼ赤の他人で、特にコミュニケーションを取りあうわけでもない。だが、即席“チャリ族”の団結力が垣間見える。

多勢の力で信号無視も平然と行い、複数のサイクリストが率先して車両の行く手を阻みながら他の参加者を誘導する。大型スピーカーを搭載した自転車は、大音量のBGMを提供。ルートは事前告知されず、行き先はその場で決めているようだが、全員がついていく。
もちろん、行く手を阻まれるドライバーたちは激怒。クラクションのけたたましい音が各所で響くが、火に油を注ぐだけ。チャリ族はベルを思いきり鳴らして反意を示す。苛立ったドライバーと複数の参加者が口論する一触即発の場面や、横断歩道を進めずに文句をこぼす市民も見かけた。

ロンドンのクリティカル・マスのサイトには、「一般車両の権利を侵害してまで活動することの正当性はあるのか?」との問題提起もされている。そうした一方、街中の一般市民の大半はいずれも笑顔で、インスタ映えする写真の絶好のチャンスを楽しんでいる。

オリンピックイヤーには逮捕者も

ところで、法には触れないのか?

英紙「ガーディアン」の2008年の記事によると、ロンドン警視庁は以前、活動の規制を目的に法的措置に打って出たことがある。初審では開催日時と通行ルートなどを事前通知する義務を課した判決が出たが、控訴院では「クリティカル・マス」は公共秩序法のなかで制限された活動には当たらないとして、この判決内容が覆された。

しかし、2012年7月には逮捕者が出ている。これは、ロンドン五輪にともなう交通規制に違反して、サイクリストが制限道路に入ってきたためだ。当初は182人が拘束されたが、最終的には5人に対して罰金300ポンドと9ヵ月の執行猶予判決が出ている。

「ガーディアン」はこれに対し、「ロンドンでは1995年から続いているうえ、(五輪開催決定から)5年間も対策を練る時間があったにもかかわらず、警察の対応はずさんなものだった」と批判。レクリエーション的なサイクリストの集まりを犯罪扱いした、と紙面上で糾弾している。

一連の裁判を経たからだろうか、常連の参加者によると、活動中に警察が強制介入して終了させられることはないという。

さて、話を戻すと、今回のクリティカル・マスの一行は1時間半ほど都心のあちこちを漕いだ後に、広い公園で停車。最寄りのスーパーでおやつや飲み物を買い込んだ参加者が、(彼らにとっては当たり前の)フライデーナイトを楽しんでいた。もちろん解散自由で、三々五々帰っていく。

大気汚染が深刻なロンドンでは、カーン市長の指揮のもと、車の排気ガス規制が強化されているうえ、通勤時の自転車利用を促すために専用レーンの整備と拡充が進んでいる。

それでも、基本的に車道を走るように規制されている自転車が、一般車両と比べて同等の権利を保証されているとは必ずしも言えない。やや強硬な手段を講じても意識改革しようという意思には、賛同できる部分がある。

しかし、参加者は必ずしもアクティビストではない。そこがクリティカル・マスの全容を把握するうえでのキーポイントであり、難しさでもある。

もし開催都市を月末に訪れる予定があれば、物見遊山がてらペダルを漕いでみるのはいかがだろう。ゆるく集まるチャリ族とともに流れる景色を体感すると、その都市の特色や問題、それぞれの参加意義が見えてくるはずだ。

Asuka Kageura

記事元:Yahoo Japan Corporation

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