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千葉県銚子市から太平洋岸約1400キロを駆け抜け、和歌山市に至るサイクリングロード。1960年代後半に構想が浮上し、70年代には工事が始まったが、約半世紀を経ていまだ7割余しか出来上がっていない。この未完の太平洋岸自転車道の整備を急ぐ機運が、政府や沿線自治体を巻き込んで突如盛り上がっている。
その背景には、2020年東京五輪・パラリンピックを機に、海外からのサイクリストを呼び込む狙いがある。これまで未決定だったスタート・ゴール地点も19年末に固まり、沿線で地域振興に携わる関係者の期待も高まっている。
1973年の国会答弁で構想表明
「昭和48(1973)年度から、鹿島から房総半島を一周し、伊豆半島を通り、そのまま紀伊半島まで行く大規模な自転車道をやれる(整備できる)よう措置したい」。73年2月23日、衆院交通安全対策特別委員会で答弁に立った建設省(現・国土交通省)道路局の菊池三男局長はこう明言した。太平洋岸自転車道の設置が力強く動き出した瞬間だった。自転車道路協会が数年前から長距離自転車専用道の整備を求めていたことも後押しとなっていた。局長の言葉通り、同年4月以降、千葉県などで建設工事が順次始まった。
だが、約半世紀が経過した今も未完のままだ。理由は簡単。自転車道よりも自動車道の建設を優先してきたためだ。財源不足で自転車専用道の敷設は遅れ、案内板や標識の設置も少ない。壮大な構想も日の目を見ることなく、ぶつ切り状態のまま人々の記憶から忘れ去られようとしていた。
しかし、広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ「しまなみ海道」の成功でサイクリングロードが観光振興にも高い効果があると一般に知れ渡り、風向きが変わった。各地の空港や駅でもサイクリストを意識した駐輪場など関連施設が徐々に整ってきた。
政府も2017年5月に自転車活用推進本部を設置し、サイクリング環境の整備に向けた取り組みを本格化させた。さらに、東京五輪・パラリンピックで来日する外国人観光客のさらなる誘致につなげようと、国交省や近畿地方整備局などが太平洋岸自転車道の沿線自治体と協力し、整備を加速する方針で一致。当面は利用者が道に迷わないよう、矢印形の路面標示や標識の整備を進める方針だ。
ルートの詳細や整備時期などを示したWebサイトも既に公開され、準備は着々と進んでいる。分岐点で迷わないよう、路面標示や案内板を20年3月末までに約400カ所新設する予定で、自動車との接触などの危険性が高い場所では注意を呼び掛ける看板も設置する。沿線の鉄道駅には、レンタサイクルや着替え場所を設けることも検討している。
どんなルートになる? サイクリングをシミュレーション
未完のサイクリングロードではあるが、スタート・ゴール地点が示されたので、実際に走るとどんなルートになるのか、推測も交えて手短にシミュレーションしてみたい。
ルートの東側から出発すると仮定。スタート地点は、千葉県銚子市の銚子駅周辺とすることが19年末に固まったばかりだ。構想段階では茨城県鹿嶋市とする案もあったが、銚子市内に落ち着いた。1日の走行距離を脱初心者の分岐点とされる100キロと仮定しても、走破するまで2週間かかる計算。長い。学生はともかく、社会人が長期休暇で一度に走りきるのは厳しいかもしれない。何度か小分けに休みを取って、挑む必要がありそうだ。
ともかく、銚子駅を背にして出発しよう。外房地域を時計回りに走り、千葉県富津市を目指す。到着したら自転車を降り、東京湾フェリーに乗り込む。自転車道であるにもかかわらず、ルートに海上国道が含まれているのだ。約40分かけて神奈川県横須賀市の久里浜に到着したら、そのまま湘南海岸を横目にこぎ続け、伊豆半島に向かおう。途中、熱海~伊東間でルートは二手に分かれるため、半島を一周するか、山越えをするかの選択に迫られる。いずれにせよ、沼津周辺で再び合流し、静岡県の長い海岸沿いをひたすら走ることになる。静岡清水自転車道など整備された自転車道が続き、天気が良ければ左手に遠州灘、右手には富士の高嶺が望めそうだ。
愛知県に入れば、旅も中盤戦。渥美半島の先端部にあたる田原市の伊良湖から伊勢湾フェリーで三重県鳥羽市へ向かおう。約55分の船旅の後は、ひたすら紀伊半島を時計回りに進む。高低差もあり、疲労が蓄積した肉体に負担がかかりそうだ。本州最南端の和歌山県串本町の絶景が見えたら、長かった自転車旅行も佳境を迎える。同県田辺市、御坊市を通り過ぎ、ついにゴールの和歌山市の加太港に至る。
現状では未整備区間も多く、決して快適な旅とは言えないかもしれないが、極めて長距離ということもあり、走りがいはありそうだ。近畿地方整備局などが中心となり、この太平洋岸自転車道を、政府公認の国際水準の自転車道「ナショナルサイクルルート」に格上げしようという動きもある。20年までには少なくともロゴマークや標識を沿線で統一し、利用者が一目でルートを確認できるようにする計画だ。
島根では一畑電車とサイクリングを一緒に楽しむ
太平洋岸自転車道以外にも、自転車ツーリズムを盛り上げようとする取り組みは各地で静かに広がっている。
例えば、茨城県の霞ケ浦周辺に整備された「つくば霞ケ浦りんりんロード」(全長約180キロ)は近年、急激に整備や周辺施設の充実が進み、今後が期待されている。東京から約1時間というアクセスも強みにしており、土浦駅にはサイクリストをターゲットにした星野リゾートの新型ホテルも開業している。ほぼ駅ナカの好立地の上、自転車と一緒に泊まることができる。宿泊料金も1泊1万円未満の手頃な価格に抑えた。観光マップの作成やWebサイトの構築なども進めており、地元自治体も自転車を核にした観光を明確に打ち出し、支援に力を入れている。
意外な穴場は松江市だ。波の穏やかな宍道湖の湖面を眺めつつ、周囲を巡るコースが人気を呼んでいる。地元の一畑電車が、全区間で自転車持ち込みを終日可能としている点も面白い。全国的にも珍しい取り組みだ。
路線の始点に当たる松江しんじ湖温泉駅のすぐ目の前に、台湾の自転車大手、ジャインアントのサイクルショップが16年にオープンし、魅力向上に一役買っている。ショップで借りた自転車を電車に持ち込めば、乗り降りしながらのレール&サイクルによる沿線観光が楽しめる。筆者が19年秋頃に訪れた際は、雨天にもかかわらず、外国人観光客が宍道湖畔のサイクリングを楽しんでいた。地元で長年乗務しているというタクシー運転手の男性は「ここ数年、自転車旅行などを楽しむ欧米系の外国人観光客がずいぶん増えてきた」と歓迎していた。
隣の鳥取県でも、米子空港でサイクル施設の整備を着実に進めている。専用駐輪スペースの設置やサイクリスト用のマップ配布などを行っている。
台湾と四国、計2000キロ走破の取り組みも
四国では、徳島、香川、愛媛、高知の4県が共同で、約1000キロの四国一周ルートの整備とPRを進めている。5キロ刻みで統一デザインの路面標識を設けるなど、走行環境の充実を図っている。自転車専用ラックを搭載したバスも登場し、区間や期間を分けて周回に挑戦したいサイクリストを応援している。完走を目指す人には、有料でジャージーを配布し、3年以内に達成すると証明書を発行するなど独自の取り組みも行っている。お遍路文化の影響だろうか、一周を達成させようという熱意を感じる。
挑戦したい場合は、愛媛県のプロジェクト事務局などに申し込み、8000円のチャレンジキットを購入する。走破を目指していることを示すサイクルジャージと公式パスを受け取れる。19年9月現在で完走者は566人に達したという。また、台湾とも連携しており、台湾一周と四国一周の計約2000キロを走破すると、「両環島成功」などと大書した特別なジャージーがもらえる。
自治体だけでなく、国をも超えてつながる自転車ツーリズム。環境に優しく、地域をよりよく知ることができるという点で、現代社会のニーズにマッチしている。日本でも長距離サイクリングロードの整備が進んでいけば、欧州のように休暇を取って家族や仲間たちと自転車旅行に出掛ける文化がより一般的になるかもしれない。
著者プロフィール
甲斐誠(かい・まこと)
1980年、東京都生まれ。現役の記者として、官公庁や地域活性化、文化芸術関連をテーマに取材、執筆を重ねている。中部・九州地方での勤務経験あり。
記事元:ITmedia